農家意見交換会の会議録

2009年度、教育GP酪農学園大学シンポジウムの記録

2010年度、教育GP酪農学園大学シンポジウムの記録

 
2010年度、教育GP酪農学園大学シンポジウムの記録
<歓迎の挨拶>
森田茂 (酪農学園大学酪農学科長)
本日はたくさんの方にお越し下さりありがとうございます。2004年から開始した実践酪農学という教育プランは、計画段階から10年以上経過しています。
この間、学科長は4人変わりましたが、4人の学科長を中心に、酪農学園大学らしいと言ってもらえるようなプログラムを運営できるようになりました。
森田茂(酪農学園大学酪農学科長)
これは決して酪農学園大学だけの成果ではありません。実践酪農学の素晴らしいところは、学生、教員、農家の方、現場で指導される方々それぞれが、現場という一つの同じものを見て、色んな角度から議論をできるという点です。それを通じて、我々教職員も勉強をさせて頂いています。今日は、実践酪農学の卒業生も発表をしてくれます。短い時間ですが、ぜひ、討論や議論をよろしくお願いいたします。
この間、下記の説明が行われた。
<教育GP事業について>
文部科学省高等教育局
大学振興課大学改革推進室
成相圭二
<実践酪農学の概要>
酪農学園大学教授 新名正勝
<実践酪農学卒業生の報告>
岡山県酪農家 長恒康裕
実践酪農学1期生の長恒康裕です。私は大学卒業後、アメリカに1年間実習し、現在は岡山県の蒜山高原で、両親と酪農をしています。今年は例年になく2m の大雪で、今日も両親が汗を流しながら堆肥舎の雪降ろしをしています。そんな中、僕は東京に行かせてもらいました。
うちの経営は、飼養頭数が経産牛65 頭、育成40頭で、ホルスタイン種とジャージー種を飼っています。年間出荷量は550t、耕地面積は3ha で全て牧草です。労力は両親と私の3人です。小さい頃から家の手伝いはしてきましたが、酪農をやりたいと思ったのは中学生の頃です。しかし、自分のやりたいことがあったため工業高校へ進み、酪農の勉強を本格的にはじめたのは大学に入ってからです。大学に入る前は酪農の知識はほとんど無くて、牛の妊娠期間も知らなかったです し、乳頭が4本あることぐらいしか知りませんでした。大学では座学をやりながら現場でも学びたいという目標があって、入学したらこのコース(実践酪農学)があることを知り、自分のやりたいこととマッチしていたので、すぐ選択しました。
2年生の前期は十勝の鹿追町の伊藤牧場で実習しました。伊藤牧場は搾乳牛230頭のメガファームで、実家の規模とは全然違う大きな牧場で、従業員も雇っていました。一番にびっくりしたのは、伊藤牧場の牧草面積が30haもあって、うちの畑数十枚分の耕地面積に圧倒されました。朝3時半から仕事のため、毎朝3時起きでした。作業は搾乳がメインで、あとは育成の餌やりと除ふんでした。夕方の作業は14時からはじまり19時〜19時半には終わっていました。伊藤牧場での一番の想い出は、牛の共進会に出品させてもらったことです。私は幼い頃から品評会に向けた牛の世話をさせてもらっていて、伊藤さんも昔やられていたそうなので、やってみたいと話したら伊藤さんは快く承諾して下さりました。僕のやりたいことに理解をしてくれて、わがままなことを言ったと思っていますが、今ではその経験が大きく生かされています。
実践酪農学コースで一番良いと思うことは、座学で勉強したことが、実際に現場で反映されているかを見れることです。理論どおりにいくこともあれば、その理論が決して正しくわけでもなく、酪農家さんのやり方もあって、一般の学生と比べてより深く学べたと思います。現場で働くことによって、わからないことが出てきて理論の大切さがわかり、大学に戻ったらもっとこれを勉強しようという気持ちも出てきて、とても充実した生活が送れました。伊藤牧場では朝早くて労働もそれなりに大変で、実習開始ではもともと太っていたのですが、大学に戻ったら18キロも体重が減って、おかげでジャンプをすれば雲にも手が届くような体の切れ味になり、軟式野球のベストナインに選ばれ、北海道の代表として東日本大会にも出場することができました。
3年生後期は、浜中町の二瓶牧場にお世話になりました。二瓶さんは僕の疑問に熱心に答えてくれる方で、放牧酪農・牛の原点である、土を踏むこと、草を食べること、太陽の光を当てることの大切さ、酪農の原点を知ることができました。奥さんや娘さんには、「あの2人(親方と長恒さん)は夜仕事を終わってもなかなか牛舎から戻ってこない」と言われていました。いつも二瓶さんと夜遅くまで、牛舎の中で色んな事を話したのを憶えています。また、共進会のビデオを見ながら夜遅くまでお酒を飲んだこともあり、とても貴重な経験をさせて頂きました。
卒業後、1年間アメリカに行くきっかけとなったのは、実践酪農学で大規模酪農と放牧酪農を見て、どうせやるなら世界の酪農を見てみたいという気持ちが出てきたことです。そこで、アメリカで共進会の実績がある、ウイスコンシン州の牧場で1年間研修しました。主な収入源は牛乳でありましたが、ブリーダーとして血統の良い牛の個体販売を行うなど、日本では見られない経営のやり方を肌で感じることができました。2年生3年生で実習したことが、アメリカに行きたいという気持ちにつながったと今になって思っています。実践酪農学を振り返って、知識の無かった自分の技術が向上するのは当然として、それ以上に、人間関係や挨拶の大切さといったことをも学ぶ場でもありました。農家や人によって、経営方針、飼養形態など色々な考え方があって、その土地にあった酪農のやり方があるんだなと、反芻して学ぶことができました。実習を通して色んな方と知り合うことができて、同業者とのつながりはとても重要であり、同じ情報を共有したり、困ったことを相談できる人がいるということは、とても心強いことです。そういうつながりが、自分にとって一生の財産になると思います。うちもヘルパー研修生や地元の大学校の学生、高校の研修生を受け入れていますが、外部から人を雇うことや、指導することはとても大変なことだと、自分も就農した立場から感じています。自分がお世話になった方々には感謝の気持ちで一杯です。最後に、自分にとっては、実践酪農学コースがなかったら、今の自分にこういうものの見方や考え方は絶対生まれていなかったと思います。実践酪農学の1期生として、自分の後輩が自分の家に実習に訪れる日が来ることを願っています。
岡山県酪農家 妹尾優佳
私は岡山県の酪農家ですが、今は北海道豊頃町のJリードという、搾乳牛500頭、育成牛500頭の千頭規模の牧場で、従業員として働いています。仕事の内容は、繁殖管理を中心として、30 頭のロータリーパーラーで搾乳をしたり、外作業の除ふんとか餌やりなど、育成の管理も担当しています。
岡山県酪農家 妹尾優佳
Jリードでは高泌乳牛とそれ以外を分けて管理していて、高泌乳牛は年間約14,000kg/頭、フリーストールの方は12,000kg/頭位を搾っています。繁殖管理を中心にやっていますが、頭数が多いので、色々な経験が生かされ、実践酪農学の延長線のように仕事をしています。
実践酪農学の実習場所は、2年生前期は鹿追町の浅野牧場、3年生後期は浜中町の岩松牧場、足寄町の桑原牧場です。鹿追町の1日の作業の流れは、4時半に起きて5時から作業、8時半に家へ帰ってご飯を食べます。10時半〜12時のリード練とは、長恒さんと同じく私も浅野牧場の共進会を手伝わせて頂き、出品牛の管理をしました。12時〜14時まで昼食、14時〜19時まで作業、19時半から自由時間でした。(スライドには)勉強時間と書いてありますが、学生からいきなり作業でしたので、(疲れていて)勉強はほとんどしていなかったです。この写真は浅野牧場の牛舎です。2人の従業員を雇っていて、5人で作業をしていました。鹿追町ではコントラ事業によって畑の管理をしていました。コントラがない岡山に比べ、畑の管理は楽だったなと感じています。
この写真は、実習中に管理していて、共進会に出品したダンディーという牛です。大学を卒業した後の一昨年にも、経産牛として共進会に出品されていました。小さい頃から世話していた牛が経産になっても活躍する牛になっていて、うれしかったです。この写真はダーハムという牛ですが、あまり勝てなかったし、私の調教不足で暴れさせてしまったのですが、それも良い想い出です。また、鹿追町ではバレーボールクラブに参加し、週2回練習し試合にも出ました。クラブに酪農家の方はほとんどおらず、畑作の方が多かったのですが、交流する中で新しい知識を聞いているな・・・と感じることができ、良い経験になりました。なお、浅野さんはマラソンが好きな方で、私も一緒にマラソン大会に参加しました。
足寄町での一日の流れは、5時に起床して5時半から午前作業、10時から朝食・昼食、14時半から午後作業、18時から入浴と自由時間で、21時位には就寝していました。昼夜放牧をしていて、連日マイナス20℃だったので、牛舎が無くても牛は大丈夫なのかなと思っていたのですが、牛は元気に外へ走っていって飼槽の餌を食べているのを見て、こういう酪農もあるのだな・・・牛の生命力はすごいな・・・と感じました。
足寄町で印象深いのは、繁殖管理をやらせて頂いたことです。毎日朝昼晩(写真にはマウンティング・スタンディング・あごのせと書いていますが)、発情観察をして、その後AI(人工授精)をさせてもらいました。親方は膣鏡を用いていましたが、私は大学で直腸膣法を行っていたため、ほとんど留まらなかった(妊娠しなかった)のですが、直腸膣法でやらせて頂きました。こういう経験をさせてくれる農家は無いなと感じました。技術も知識も無い学生に、人工授精をさせてくれるのはすごいことだと思います。この人工授精をやらせて頂いたおかげで、この知識が足りない・・・この技術が足りない・・・ということを身にしみて感じ、大学に戻ったらここをスキルアップしなければいけない・・・そういう課題が見つかって良かったです。
育成には温水を哺乳で6L給与とスライドに書いていますが、北海道では温水をあげていることも知らなくて・・・1回に6Lも給与することも、すごいなと感じました。
仕事だけではなく、浜中町の岩松牧場では家族でわいわいみんなでご飯を食べることが、大学では一人でご飯を食べていた私にはとても新鮮でした。足寄の桑原さんには旭山動物園に連れて行ってもらったり、層雲峡温泉に浸かりに行ったりと、楽しい生活をしていました。また、岩松牧場の写真に写っている女の子たちは、岡山県の中四国農業大学校の生徒です。この2人はとても仕事ができて、何もできなかった私は、こんな年下の子に負けて私は何をしているんだ・・・と思っていました。彼女らとは今も連絡をとっていて、こんなところにも出会いがあるんだな・・・と思いました。
実践酪農学に参加した目的は、高校時代、酪農から離れた生活をしていて、後継者なのに知識は何もなかったことと、酪農の勉強をするには現場で体験する方が身につきやすいと感じたからです。実践酪農学は長期実習なので、学べることが多く、専門知識がついたと思います。普通の大学では質問をなかなかできませんが、このコースは少人数なので、先生に質問を投げかけ、その回答をもらうことができ、授業内容を理解しやすかったです。実習先だけでなく、町内に知人ができたので、色々な情報交換ができました。実習を社会に出る前に経験することで、疑問を大学の中で解決することができました。実習を通して大事だと思ったことは、疑問を抱くことです。仕事を淡々とこなすだけでは疑問は生まれませんが、これは一体どういうことなんだろう・・・というように疑問を抱いていけば、それを解決することで自分はスキルアップできます。私は3年生のときに体調が悪くなって、実習を途中で中止して皆さんにご迷惑をおかけしましたが、自分は何でここで挫折してるのだろうと後悔しました。先生 方にも農家さんにもご迷惑をおかけして、自分は一体何をやっているんだろう・・・と思ったのですが、後悔しているだけでは何も生まれません。その後、足寄町に実習に行ってわかったことですが、自分が決めたことに後悔をせず、次にやろうとしていることに熱中するべきだ・・・と思いました。
私は将来、岡山の酪農を継ごうと思っていますが、その土地にあったやり方があると思います。これは真似できる・・・このやり方は奪える・・・そういうことを実践酪農学を通して見つけることができました。まだ、岡山に帰る予定はありませんが、帰ったときに、その良い部分を取り入れて、新しい経営をしていきたいと思っています。実習の時にお世話になった先生、受け入れてくれた農家にはご迷惑をおかけしましたが、ありがとうございました。
榛名酪農協 坂口祐子
私は地元である群馬県榛名酪農協同組合連合会に所属しています。仕事の内容はヘルパーで、高崎市、吉岡町、榛名村、渋川市の4つの町の32軒の農家を、先輩のヘルパーさんと2人で担当しています。
2年生の前期は足寄町の梅津牧場で、3年生の後期は鹿追町の浅野牧場で実習しました。
榛名酪農協 坂口祐子
梅津牧場での私の働きはあまり良くなかったと思うのですが、初めて長期で仕事をしてみて、教科書には載っていないちょっとしたコツや、この流れでやると速く終わるとか、自分なりに一つ一つ勉強してやることができました。放牧は私がやってみたい酪農の一つでしたが、とても勉強になりました。浅野牧場では、私は妹尾さんと違 って冬でしたので、共進会の手伝いはありませんでしたが、同じつなぎ飼いでもやり方が違うので、自分なりに課題をつくってやっていきました。鹿追では色んな作業機械も見ることができ、一つの作業でも様々なやり方があるということを学びました。
学校とのやりとりでは、(巡回や集中講義、メールなど)先生方のサポートが厚くて、安心して実習を受けることができます。(少人数で授業が受けられる、農家さん・地域の方と仲良くできる等々)このような良い点がありました。私はあまり頭が良くないので、体で覚えたいと思って実習をしたわけなのですが、酪農というものは、目以外にも、耳で聞いたり、匂いだとかから、その時々によって色々と考えなければならないことがあります。その経験は今、ヘルパーの仕事に役立っています。(携帯がつながらない、取得できない資格があるなど)あまり良くない点もありましたが、その分、大学に戻ったらやってやろう!という気になりました。
今はまだヘルパー1年目で、農家さんには色々とご迷惑をおかけしていますが、色んな違う形態の農家さんが見れて、私なりに色々勉強をさせてもらってます。将来のことはあまり考えていないのですが、とりあえず今はヘルパーの仕事を一生懸命やって、農家さんに満足してもらえる仕事ぶりができたら良いなと思っています。実習に行ったとき、最初は不安で人見知りもあって、うまくできるのかと思いましたが、皆さんが温かくご支援して下さったので、私は最後は来て良かった・・・やって良かったと思いました。このことをかてに、一人前に早くなってがんばっていきたいと思います。ありがとうございました。
<パネルディスカッション>
干場信司 (座長)
まずはパネラーの方から、自己紹介も含めて、感想でもよろしいですし、問題点やここを変えたらもっと良くなるのでは?といった、将来に向けてのご意見も含めて、一言ずつお願いします。
干場信司(座長)
奥秋吉広 (鹿追町受入農家)
私の経営はフリーストール・パーラー飼養で、年間1千d位の牛乳を出荷しています。鹿追町酪農は夢にまでみた10万dという記録を達成しまして、祝賀会が予定され、皆がんばっています。その鹿追町酪農を支えてきたのが、多分日本で一番大きいと思われるコントラクター事業と今年で18年になるヘルパー事業、そして今年で4年目になる鹿追町酪農の研修制度で、ピュワモルトクラブハウスで10名の研修生を受け入れています。町内113軒の酪農家の従業員数は100名を超えていて、雇用とコントラそしてヘルパーにより、たっぷりと休みをとりながらやっているのが鹿追町酪農です。今日は鹿追町で実習した卒業生の方が来てくれました。電柱を折った人もいますが、車は壊しても体をこわさなければ大丈夫ですので、今後もがんばって鹿追町に来て頂きたいと思います。酪農学園の当時の学長の”寮生活は人間形成の場である”という言葉が、今の自分にプラスになっています。学生が酪農家に実習に入り、一緒に食事をしたり仕事して学ぶことは、将来の仕事の面だけでなく、人間形成にプラスαになっていると思います。
浜田和久 (JA鹿追町)
卒業生の話などを聞いて、非常に参考になる情報が得られました。このような場を頻繁は設けることは難しいと思いますが、今後の参考にして役立てていきたいと思います。
岩松邦英 (JA浜中町)
鹿肉等の販売やグリーンツーリズム研究会も立ち上げて、力を入れています。平成18年から8名の学生を受け入れました。今でも連絡を取り合っている学生が2名います。その子は何でも質問してきて、食い下がってきます。こちらも負けられないと思って勉強し、答えられる範囲で答えています。前期と後期で実習に入るタイミングは、もっと改良の余地があると考えます。自動車事故を予防する対策も必要です。
寺山麻衣子 (JA浜中町)
酪農学園大学を卒業した平成17年から実践酪農学の学生の世話を担当しています。最初のうちは学生と歳が近くで何でも話せましたが、だんだんと歳が離れ、今は話のネタを探しながら交流を深めています。学生の病気や怪我の対応など、生活面のフォローもしています。最初のうちは農家さんも私も慣れなくて試行錯誤でしたが、最近は受入体制も形になってきて、3軒の農家さんもそれぞれの受け入れ方ができています。実習に来る学生の数が減っているので、毎回3人来てくれるよう、たくさんの学生を集めて下さい。
梅津昭三 (足寄町受入農家)
実習生には、こうしなさい、ああしなさいとは言わずに、私が実習生の動きを見ながら逆に勉強している場面もあります。学生は基本的なことは分かっていて、私より作業を能率良くやる学生もいます。なごやかな雰囲気でやっていますので、今後もぜひ学生さんに来て欲しいと思っています。
梅津三枝 (足寄町受入農家)
学生さんはとにかく真面目で一生懸命だし、逆にこちらの方がいろんなことに気付かされて、勉強になります。
安久津勝彦 (足寄町長)
足寄町では平成18年から、トータルで13名の学生を受け入れています。今日発表してくれた学生さん3名のうち、2名は足寄で実習してくれました。とてもたくましくなったな・・・という印象をうけています。学生を受け入れることは素晴らしいことだと思っています。足寄町は放牧酪農を推進しております。今後とも実践酪農学コースの学生の派遣を引き続きよろしくお願いします。
角谷徳道 (農林水産省経営局)
人材育成課の課長として、就農する方をどう応援するか、どう増やしていくかという仕事を行っていました。学校での農業教育の支援や、就農する際の資金等の支援措置も行っています。農業後継者が高齢化し、就農する人が増えないという状況下、ここ数年では35歳以下で就農した人は全国で15,000 人程度、学校を卒業してすぐに就農した方は2,000人程度です。そんな中、サンドイッチ方式(座学と実習を交互にする)の教育は、就農に結びつける上で有効であると関心を持っています。
角谷徳道(農林水産省経営局)
小田中久康 (中央畜産会)
酪農以外の専門性を高めた大学は、他にはありません。それだけ専門性の高い教育を行っているのが酪農学園であり、さらには実践的な実習を行っておられます。そこで学ばれた学生は、酪農学園を背負って、実学を学んで、表に出て、存在意義を発揮してくれる方々だと感じました。
柴田正貴 (畜産技術協会)
農学も工学も実学であり、産業に貢献する人材を育成するのが実学の使命であると思います。今日、卒業学生の話を聞いて、総合力のある学生が育っているという印象を受けました。現場で自分で携わるから疑問がわいて勉強になる・・・そういう良い循環が見られます。昔は自分で実習先を見つけていましたが、それを大学がサポートするコースを設けたことがとても良い印象です。
干場信司 (座長)
議論の一つのポイントとして、サンドイッチ方式(座学と実学を交互にする)の課題について討論したいと思います。
岩松邦英 (JA浜中町)
前期と後期の間に空く時間が長いので、前期で覚えたことが後期で発揮できないのではないだろうか。大学である程度の知識の取得やサークル活動などを終えた後、3〜4年生に集中して実習を行うのも良いと考える。
会場から (卒業学生)
2年生前期だと、まだ大学に入って1年しか経っていないので、戸惑いや不安も大きい。3年生からだとその不安はある程度解消しているが、4年生だと卒論や就職活動があるので、それはまた問題が出てくる。私は実習で充実した生活を送れたので、その反動で大学に戻ったら少々気が緩んで、体で覚えた部分は忘れていた。連続して2つの農家で実習するのも良いが、サンドイッチ方式により一旦戻って冷静になって考えてみるのも良い。
会場から (卒業学生)
農家さんはそれぞれやり方が違う。2回実習に入る上で、新しい農家さんのやり方に慣れるためには、インターバル(大学に戻って気持ちを整理する期間)があった方が良い。
会場から (実習中の学生)
実習の間に1年間座学が入るが、(長すぎるので)半年間で良いと思う。でも、それだと冬に実習して、また冬に行くことになり、同じ季節に実習に行くことになるので、実習としては良くないと考える。
会場から (受入農家)
前期(4月〜8月)は農繁期で忙しい時期だ。その時期を外した方が、学生とゆっくり話ができる。しかし、学生にとっては、そういう大変な時期に学ぶことで、ある意味良い体験ができる。
会場から (受入農家)
2年前期は、学生も受入側も多少ぎくしゃくするが、3年後期はすーっと作業に入っていける。1年間の期間を置く方が良いと感じる。
会場から (受入農家)
2年前期に大学では体験できないことを経験することで、後期の座学ではより深く納得できる。実際の現場と座学を交互にやることにより、より中味の濃い学習になる。
会場から (受入農家)
2年前期は収穫などで忙しく、学生と会話できる時間がとれないのだが、そういう事情は理解してもらいながら、3年後期で自分の考えや農家の考えを具体的に照らし合わせていくのが良いと思う。2年前期と3年後期という現状の運営の中で、何とか妥協点を見いだしていくのが良い。
会場から(受入農家)
干場信司 (座長)
議論のもう一つのポイントとして、様々なトラブルがある。しかし、トラブルの中で学生が学ぶことも大きい。農家さんには大変迷惑をかけているが、その分学生は沢山学んでいる。
寺山麻衣子 (JA浜中町)
出かけるときに、農家さんに一言かけるだけで、農家は余計な心配をせずに済むし、アドバイスもすることもできる。
会場から (受入自治体)
学生にはトラブルを隠そうとする意志がある。起きてしまったことを素直に認めて対処することが一つの勉強だ。
会場から (農業高校教諭)
本校でも地域の協力を得て、1年生の時にインターシップを5日間行っている。以前は学生人600余りのうち18人だけの参加だったが、4年前から全員に展開している。インターシップを通じて進路が決まる学生もあり、新しい体験学習の形であると考える。
奥秋吉広 (鹿追町受入農家)
就職難が叫ばれる中で、実践コースの学生は求人を選べれる実力を持っていることが素晴らしい。大学4年間は遊んでいれば短く終わってしまうが、現場に出ると将来につながる。目的をもって学生生活を送る学生は輝いている。
浜田和久 (JA鹿追町)
学生も受入農家も大変な部分は多いが、明らかに成果が出ている。良いプログラムであるので、これからもさらに発展を期待したい。
岩松邦英 (JA浜中町)
自分が実習していた時を思い出すと、トラブルが一番勉強になりました。親方が困っていてどういう対処をするのか?、にやにやしながらメモっていました。そういう時が一番勉強になります。嘘をつく・・・言い訳する・・・人のせいにする・・・そういう態度をとる時は厳しく怒りますが、基本的に学生には(トラクター操作以外は)何でもさせています。
寺山麻衣子 (JA浜中町)
実習に来たときと帰る時を比べると、学生が成長しているなと分かります。頼もしいというか、自信がついたような顔つきをみると、実践学の成果なんだなと感じます。大学の先生が来て講義をする機会は普段はないので、集中講義や夜の交流会などで、町の若い後継者らが、今研究している内容や大学で教えていることに、直に触れることができ、良い機会になっています。
梅津昭三 (足寄町受入農家)
学生さんは、面接などを受けて、学校から推薦を受けて来たわけですから、自信を持って実習に挑んで頂きたいです。真剣に実践してもらえば、就職口もそこそこある・・・そう確信しています。
安久津勝彦 (足寄町長)
3名の卒業生の話の中で、実践することで得た人とのつながりや連携は、一生の財産になると報告がありました。仕事は疑問をもってやることが大切だという話もありました。役場時代、僕は先輩から、仕事は疑問をもって批判的にやれと言われました。そのことを実践の中で感じたのは素晴らしいことだと思います。足寄町は新規就農を推進していますので、このコースを修了した方が新規就農してくれることを切望しています。
一方、足寄町が崩壊するという位、重大に受け止めているのはTPP問題です。新聞は農業関係者だけが反対しているような書き方をしていて、報道にも不適切な面がありますが、TPPは現段階では絶対に阻止しなければいけないと考えています。生産者と話すと、自分らは営農できなくなる・・・という声があり、これは事実だと思います。しかし、生産活動は単に自分らが飯を食うためだけでなく、社会貢献をしています。農業者は食糧生産という重大な使命を持っています。
生きるためには食糧と水が必要です。どこの国でも食糧は戦略物資の一つなんです。先進国の中で自給率が40%なんて国は他にありません。農業のもつ多面的な機能を含めて、生産者らが、自分たちが担う役割や使命をどう高めていくか考えることが大切です。競争するためには大規模化が必要と言われます。それも一つの方法ですが、企業の場合は利潤が出なければ撤退します。農業はそれではいけません。足寄町は典型的な中山間で、生産条件が悪い地域です。農業王国十勝の中でも、反収で言えば足寄町は下から1〜2番目です。そういう状況の中で出てきた工夫が放牧酪農です。もちろん放牧酪農だけが良いわけではありませんが、生産者が自分たちでできることを考えるのが大事です。日本の農業政策はしっかりしています。政権も交代して大いに期待しました。しかし、TPPだけは絶対に許せない思いです。
安久津勝彦(足寄町長)
小田中久康 (中央畜産会)
実践学を続けていくのが酪農学園大学の使命だと思います。サンドイッチ方式の課題については、学生の目的がどこにあるのか?、大学の目標はどこにあるのか?、農家がどういうスタンスで受け入れてくれるのか?、それらのマッチングを見極めることにより、実習のタイミングや時期などの回答が出てくると思います。
柴田正貴 (畜産技術協会)
試験場でも新人を採用すると、農家で研修をやってもらいます。受け入れてくれる農家がある場所は、地域が元気です。良い農家だけがポツンとある場所はだめなのです。今度の新人はちゃんとやっているか?近所の農家が見に来て声をかけます。つまり、地域の仲が良いわけです。借金して借地してすごく儲かっている・・・そういうのではなく、地域に根ざした農業をやっている人がいて、儲かっているわけではないがきっちりやっている・・・そういう農家がそろっている場所は、地域が元気で農家も元気です。そして、新人も元気をもらいます。今回のシンポジウムでも、実践学を通してお互いにうまく元気のやりとりをしていると感じました。事業仕分けで文科省ができないのであれば、農水省がやっても良い事業だと思います。
角谷徳道 (農林水産省経営局)
サンドイッチ方式で、頭の中の理解では足りないものを、実際の現場で体で理解する・・・そして、疑問を持って大学に帰る・・・それを座学で解決し、知識を高めてまた現場に行く・・・、それを繰り返すことによって、より専門性があり現場の実態を理解した人材をつくる・・・それがうまくいくのであれば、仕組みとして効果は非常に高いということになります。
評価の出口としては、卒業生が実際に酪農家になることや、関連産業へ進むこと、あるいはその他の分野に進むなど、いろんな場合があり、それをどう見るかで期待する効果も違ってくるのではないかと思います。そのあたりは良く分析して頂き、学生によっては途中でやり方が変わるということがあっても良いと思います。
受入側としては、すぐに即戦力にならないと分かった上で学生を預かっていますが、本音では将来、地域に入ってもらって就農または関連産業に従事してもらうことを期待している方が多いと思います。受入側の期待に応えていくためにも、この仕組みをどうするかはしっかりと考えて頂きたいと思います。
卒業をした後の話ですが、就農して現地に入っていく方を預かって下さる農家さんに何か支援する施策を考えています。就農した後の支援制度の活用も考えて頂きたいと思います。
干場信司 (座長)
大学の役割は、現場から学んだことを現場に戻すことだと考えます。現場から学ぶことが出来なくなった大学や研究機関、行政もありますが、現場から学ぶことを忘れると宙に浮いたものになります。
農業を通して学ぶことは、すべての要因を含んでいます。技術を学ぶということだけでなく、農業が持っている教育力はすごいものだと思っています。問題点もありますが、ご意見を伺って、組み方を変えながら、基本的な考えを続けていきたいと思います。今後ともご支援をよろしくお願いします。ありがとうございました。
 



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