実践酪農学コースとは


酪農学園大学の特色

酪農学園大学は、酪農家からの出資を基にして、1933年に黒澤酉蔵によって設立された北海道酪農義塾に始まる。本学の建学の精神は、「神を愛し、人を愛し、土を愛す」という「三愛精神」であり(図1)、この「三愛精神」を農業・人間形成の面における理念としてわかりやすく表現したのが「健土健民」思想である(図2参照)。これは、「人が健康であるためには、人が毎日食する食べ物が健康でなくてはならない。食べ物が健康であるためには、それを生産している家畜が健康でなくてはならない。家畜が健康であるためには、家畜が食べる飼料(植物)が健康でなくてはならない。健康な植物は健康な土から生産される。すなわち、人が心身共に健康であるためには、土(自然)が健康であることが絶対条件であり、同時に、健康な土は健康な精神を持つ人によって維持される。」という考え方であり、食の安全・
安心を含め、環境問題や共生社会を考える際の基本ともなる理念である。また、その実践にあたっての基本的方法は「循環農法」で表わされている(図3、図4参照)。これは、「物質循環を作りながら生産するのが、農業・酪農の基本である」とする考え方を表現したもので、循環型社会が叫ばれている現在、最も必要とされている理念であろう。


学園創立者の黒澤酉蔵は、「酪農学園の歴史と使命」(1970年)の中で、「有為な人材を農村へ送り出すのが本学園の使命」と述べている。この「有為な人材」とは、上述した「三愛精神」、「健土健民」、「循環農法」で表わされる本学の建学の精神・理念を体得した人材のことであり、そのために本学では古くから、実学教育として、酪農家に住み込んで行う3週間の実習を、必修科目としてカリキュラムの中に入れている。これは、現在注目されている「インターンシップ」にあたるものである。

 


これまでの実績

この新教育方式の前身として、夏期休みの間を利用して取り組んできた農家委託実習がある。これは前述した建学の精神を実践するもので、短期間ではあるが生活の場を生産農場に置き、農業の実態、農作業や農家生活の体験、農業者の意識や経営哲学等を学んできた。この取組は昭和36年に始まり、現在まで既に40年程の歴史を有している。受け入れ農家の多くは本学卒業生で、後輩の実学教育に理解と協力を示しており、農業後継者育成を本旨としてきた本学ならではの実績の上に成り立つシステムである。


参考までに昨年度の状況を表1に示した。毎年約500名の学生が約350戸の生産者農場に出向き、3週間の実学を体験しているが、アンケートによる学生の評価は高く、95%の学生は実習成果があったと回答している。委託実習の様子を図5、6に示す。

 

 

黒澤酉蔵は、健康な民は健康な土から創られる、と説いている。土が健康で初めて健康な草ができ、健康な草を
食べた牛は健康になれる。健康な牛から生産された牛乳や肉は健康であり、それを食べる人間も健康になることが
できる、と言う考え方である。すなわち、人間が健康になるためには、土にはじまって全ての生き物が健康でなく
てはならない。これは「共生」の考え方に通じるものである。また、この図では、酪農学園大学酪農学部の4学科
がどのように位置づけされるかをも示している。

 

酪農学園大学の創立者である黒澤酉蔵は、「農業とは、天・地・人の合作によって人間の生命の糧(かて)を生み出す聖業である」と述べている(1971)。

 

槌田敦(1992)の考え方を参考にしながら、現在における酪農業を中心とした物質とお金の循環を示した図である。酪農学園大学酪農学部の4学科がどのように位置づけされるかをも示している。
エントロピー論的に考えるならば、太陽からの低エントロピー資源を社会(酪農業)が循環・利用し、増大したエントロ
ピーを宇宙へ放出することにより、持続的な社会が成り立ことになる。

 

 



酪農学園大学の特色実践酪農学コースとは

実践酪農学コースを企画した理由


本学の使命である「有為な人材を農村へ送り出す」ため、本学では長年にわたり、「委託実習」と称して酪農家に住み込んで行う3週間の実習を、必修科目としてカリキュラムの中に入れてきた。これは、現在多くの大学で取り入れようとしている「インターンシップ」にあたるものである。これにより、学生は極めて大きなインパクトを受け、沢山のことを学んできた。数多くの学生が4年間の学生生活の中で最も印象の強かったものとしてこの「委託実習」をあげている。しかし、3週間では酪農家が行う年間を通じての作業や生活を学ぶことは難しく、卒業後に即戦力として酪農を担うまでには至らないという課題も抱えていた。


また、現在、酪農技術は専門化・細分化しており、大学において、例えば受精卵移植や搾乳ロボットなどいわゆる近代的技術を個別に学ぶことは可能であるが、実際に酪農家が行っている業としての総合的・システム的な技術やそれを支える考え方・視点を学ぶことは難しかった。

この総合化された技術およびその視点を学ぶためには、座学だけではなく実際の現場で体を動かしな
がら学ぶ実践の機会を持つこと、しかも、座学と実践が交互にあること(サンドイッチ方式)が更に教
育効果を高めるものと考え、取組を企画した。


取組の目的


図7に示したように、在学4年間の内、トータルで約1年間を酪農家で実践をしながら学び、本学の建学の精神・理念を体得し、即戦力となる人材を4年間で養成することを本取組の目的とする(図8、9)。

 

大学の理念・目的との連関性  

 

「三愛精神」、「健土健民」、「循環農法」で表される本学の建学の精神・理念を体得するためには、学内で講義を受ける座学だけではなく、農業・酪農の現場で体を動かしながら、牛や土やえさに触れながら、また自然溢れる農村で生活を共にしながら、体験的に実感を通して学ぶ必要がある。このような体験を経て、また、それを座学でブラッシュアップすることで、本学の使命である「有為な人材を農
村へ送り出す」ことが可能になると考える。

図7.新教育方式の概念図

図8.サンドイッチ方式
 

図9.サンドイッチ方式のイメージ図


実践酪農学コースの特色


a.まず1年前期に実施する「実践酪農学」で、現場の指導者や優れた酪農家による話題提供とその後のディスカッションにより、新1年生に現場の状況をわかりやすく認識させる(表2、図10、図11参照)。また、1年後期に実施する「実践酪農学演習」では、次年度の農家研修に向けて、実作業の目的と 意味を理解させるとともに、可能なものは予備体験をさせる。また、機器の取り扱いを習熟させ、スムースに遠隔授業が遂行出来る体制を整える。


b.1年前期には、現地の酪農家に入り、電子メールを利用した遠隔授業と現地集中講義(教員が赴 き、酪農家にもご協力いただきながら実施)の併用により、現場の状況を踏まえた実学教育を実施する (表3、4参照)。


表4
c.このように学内における座学と酪農の現場における実践(2年前期と3年後期)を交互に実施する新教育方式(サンドイッチ方式、図7、8、9参照)により、学生の授業に対する意識を高めるとともに現場技術に対する理論的把握が出来るようにする。
d.さらに、大学教員と現場との接点が多くなることにより、教員が直接あるいは学生を通して、現場に情報を伝えるだけではなく、教員も現場の技術や問題点に触れてそこから学ぶという、双方向の交流が可能となり、教員が行う講義の内容を現場に根ざしたものにすることができる。


酪農学園大学の特色

1999年10月に行われた酪農学園常任理事会のヒヤリングに端を発しているが、その後、学園教育委員会連携部会でも検討がなされた。本大学酪農学部全体の問題であるが、本大学設立時から存続する唯一の学科である酪農学科で先行的に検討を進めることとなった。
酪農学科内では3年5ヶ月にわたり検討を行った。その間、ワーキング・グループ(教員6名)による打ち合わせを13回、学科会議での検討を11回行った。

また、大学酪農学科および短期大学部酪農学科の在学生に対して、このような新教育方式に対する意見を聞くアンケートを実施した。その結果は、回答者602名の内、約80%の学生が学年にかかわらず「とても興味ある」あるいは「興味ある」と答えており、この新教育方式で学びたいとする学生も50%を超
えていた(図12、13参照)。
さらに、酪農学科で方針を定めた後、大学の教務委員会で3回にわたり検討し、酪農学部教授会・全学教授会を経て、全学的な合意を得ている。

 

 


 

 

 



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